【2019年3月】スペシャルインタビュー
横浜血管クリニック院長 林 忍 先生
人間は「血管」から老いる
血管が硬くボロボロになるのが動脈硬化です。動脈硬化は目立った症状がなく、静かに進行します。いったん悪化すると後戻りできないのも特徴のひとつです。 そこで、予防が何より大切になってきます。 動脈硬化のスペシャリストである林忍医師(横浜血管クリニック院長)に話を聞きました。
動脈硬化は健康を害する大きなリスクとして考えていいのでしょうか。?
そのとおりです。健康な血管は柔らかくしなやかで、内壁もきれいなので、血液はスムースに流れていますが、加齢とともに柔らかさやしなやかさは失われ、硬くもろくなり、内径も狭くなってきます。それが動脈硬化です。 動脈硬化を起こした血管は破れやすく、詰まりやすくなりますから、脳の重要な血管が破れれば脳出血、詰まれば脳梗塞となり、心臓に酸素や栄養を運ぶ血管が詰まれば、心筋梗塞となります。これらの心臓病や脳卒中は命にかかわる病気ですし、同じく動脈硬化を原因とする閉塞性動脈硬化症は、悪化すれば歩行困難になるなど、著しくQOL(生活の質)を低下させる病気です。
原因は加齢だけですか。
いいえ。加齢による動脈硬化は誰しもやむを得ません。ところが、暴飲暴食によるメタボをはじめとして、高血圧や喫煙、運動不足、ストレスなどによって動脈硬化は促進されます。残念なことに、いったん動脈硬化が進むと、血管は元の状態には戻りません。そこで、悪化のスピードを抑えることが重要になります。予防が大事だということです。
動脈硬化はどのような仕組みで起こりますか。
まず、高血圧や高血糖、悪玉コレステロール(LDL)によって、血管の内皮細胞が傷つきます。内皮細胞は動脈硬化を防ぐ機能をもっており、それが衰えただけでも動脈硬化は進みますが、血中の悪玉コレステロール値が高ければ、傷ついた箇所に悪玉コレステロールが付着するのです。それが活性酸素によって酸化すれば、これを異物と判断した免疫細胞が攻撃します。この免疫細胞は貪食細胞とも呼ばれ、異物を食べつくし、死んでしまうのです。その死骸の山が血管の内壁を狭めます。プラークと呼ばれるこの死骸の山が大きくなれば、血流は悪化し、酸素や栄養分が各器官へ運ばれにくくなるのです。
プラークはお粥のように軟らかくとても不安定で、破裂することもあり、そうなると血小板が集まってきて血の塊である血栓ができます。また、破裂しなくても、プラークが血液の流れを乱すことで血小板が活性化され、血栓はできやすくなるのです。 血栓自体が大きくなり血管を詰まらせることもありますが、はがれた血栓が血管を通じて運ばれ、脳の血管を詰まらせ、このような形でも脳梗塞は起こります。
動脈硬化の進行程度はどのような検査でわかりますか。
動脈硬化の初期に目立った症状は現れません。一般的な血液検査ではLDL値や血糖値がわかりますが、上腕と足首の血圧を測定し、その比率を計算するABI検査(四肢血圧検査)も動脈硬化の進行程度を推測するために用いています。血管の中の様子を確認するには頚動脈のエコー検査(超音波検査)が最適です。
頚動脈は体表面の近くを通っている太い血管ですから、プラークの有無や大きさなどが見やすく、その他の血管の動脈硬化の程度を推測することができますし、何より頚動脈の動脈硬化は脳卒中のリスクを高めるため、この検査は欠かせません。頚動脈の動脈硬化が進んでいる状態が内頚動脈狭窄症です。もちろん、胸に痛みを感じるなどの症状が出ている場合は、心電図検査や心エコー検査などを実施します。前者は心臓のリズムを、後者は心臓の動きをみるものです。
心臓や脳のCT検査やMRI検査もありますが、これらを毎年のように受ける必要はありません。あえて人間ドックのメニューに入れることもないでしょう。
動脈硬化は進行や悪化を防ぐことが大事だということですが、予防法を教えてください。
高血圧や高血糖、高悪玉コレステロール値、喫煙、運動不足、ストレスなどの危険因子を取り除くことです。動脈硬化が引き起こす病気は生活習慣病ですから、生活習慣を見直さなければなりません。それは食事と運動の大きく2つに分けられるでしょう。
食事面では、暴飲暴食を注意することは言うまでもありませんが、積極的に食べていただきたいのは、サバやサンマ、イワシなどの青魚です。これらの魚には、魚の油であるEPAやDHAが含まれています。EPAや DHAには、血中の悪玉コレステロールや中性脂肪を減らしたり、血液が固まるのを防いだりする働きがあるのです。また、梅干しやレモンなどに含まれるクエン酸や、納豆の主成分であるナットウキナーゼには、血液をサラサラにする効能があります。さらには、血管を詰まらせるドロドロ血液を防ぐために、こまめな水分補給に気をつけることです。
運動不足は肥満やメタボの元となります。体脂肪を落とすにはやはり有酸素運動です。中でも、ウォーキングをお勧めします。週に1、2回、1回30分ほど、少し速歩きをしてはどうでしょうか。それから、喫煙は絶対にダメです。
先生のクリニックには「冷え症外来」があります。冷えと動脈硬化の関係はいかがでしょうか。
体が冷えて体温が下がると、血液の循環が悪くなりますし、逆に、血流が滞ると体は冷えます。体を温めると血流が良くなり、血管は広がり、傷つきにくくなる。つまり、動脈硬化の予防になるわけです。
冷えの予防や改善には、先ほどの有酸素運動や禁煙のほか、外部から体を温める方法としての入浴はもちろんのこと、ショウガやネギ、ゴボウなどの陽性の食べ物や、紅茶やほうじ茶、ココアなど、体を温める飲み物をとったりするといいでしょう。
うちのクリニックでは、治療にビタミンEや漢方薬を用いてきました。患者さんの状態を見きわめ、桂枝茯苓丸や当帰芍薬散、加味逍遥散などの中から最適な漢方薬を処方しています。個人差はあるものの、半年ほど続けていただければ、実際に体温が上昇することも珍しくありません。動脈硬化も冷えも生活習慣を見直して予防や改善に努めてください。
林忍先生プロフィール
平成5年、慶應義塾大学医学部卒。同大学外科非常勤講師。医学博士。同大学病院外科、済生会横浜市東部病院外科副部長(血管外科部門長)などを経て、平成28年、横浜血管クリニック開設。