【2018年9月】特別インタビュー
川嶋 朗 先生
冷え治療の第一人者が
提唱する新たな健康法
西洋医学が扱ってこなかった「冷え」の改善を誰よりも早く提唱し、西洋医学では結果が出なかった多くの患者さんを救ってきた川嶋朗先生(東京有明医療大学教授)が、今もっとも注目しているのが腸を温める「腸温活」です。 腸温活の必要性からその具体的な方法まで、じっくりお話をお聞きしました。
今年は猛暑ですが、熱中症になるほどの暑さでも、やはり体を温めなければなりませんか?
熱中症になりやすい人は、気温が高まれば熱中症になり、寒くなれば体が冷えてしまいます。外気温の影響で体温が変化する変温動物のようなものなのです。
熱中症にならないようにするには、冷やさなければならない箇所はありますが、体の中で冷やしていい部分とそうでない部分を知っておかなければなりません。内臓の冷えはもっとも避けなければならないので、冷たい飲み物や食べ物は控えることです。中でも、冷たい麺類は、冷たいまま体の中に入っていきますから、食べ過ぎてはいけません。それと同時に、お腹のまわりは冷やさないようにしてください。お腹には大切な臓器が集まっています。お腹が冷えると、この部分の血液の流れが悪くなり、各臓器や器官に血液(栄養分や酸素)が運ばれなくなって、機能が低下してしまうのです。それが悪化すれば、体調が悪くなったり病気になったりします。
子どものころ、「お腹を出して寝てはいけません」とよく母親から叱られましたが、これも同じことですね。
お腹を冷やすと、お腹をこわす人がいます。「お腹をこわす」という言葉は、下痢をしたときに使われますが、お腹を冷やしたことで腸も冷え、機能が低下して下痢が起こるのです。ただし、下痢だけではなく、腸の働きが悪くなることで、便秘になる人も少なくありません。腸以外にも、例えば、肝臓の働きも悪くなります。肝臓はさまざまな働きをしており、特に蛋白合成や解毒の力も弱まり、人間の健康に重大な悪影響を及ぼしかねません。
先生は「腸温活」という考え方を提唱されています。
腸は私たちの健康にとても重要な役割を果たしていることがわかってきました。
人間の免疫を司っているリンパ球の約7割が腸に存在しており、特に、ウイルスや細菌などの異物を攻撃する抗体の一種であるIgAは腸や喉に集まっています。理由は、食事や呼吸によって体外から侵入してくる異物を最前線で対応するためと考えていいでしょう。よって、これらの免疫細胞を活性化するためにも、腸を温める「腸温活」が大切なのです。
「腸温活」を推奨されている先生の中には、腸を温める食べ物をとるように指導されている方もおられますが、これはいかがでしょうか。
腹巻きや湯たんぽを使ってまずお腹まわりを温めることを私は勧めていますが、食べ物の場合は、4℃以下のものは避けること、そしてできるだけ常温のものを食べることです。それでも冷えによる不調が改善されないようなら、温かい食べ物をとり、まだ治らなければ、そのときは体を温める性質の食べ物をとるように指導しています。
冬が旬のもの、暖色系のもの、寒冷地や地中で育つものが体を温める食べ物です。これらを参考にして食べ物を見分けてください。また、水分の少ないもの、キムチや納豆などの発酵食品も体を温める食べ物といえるでしょう。水分は体を冷やしますし、むくみます。体がむくむと体が冷えるという悪循環になるのです。発酵食品は腸内の善玉菌を増やします。すると、腸内の温度が高まるのです。食物繊維も善玉菌のエサになり、善玉菌を増やします。
では、外気温に左右されない体にするにはどのようにすればいいでしょうか。
外気温が上がれば、体温が異常に上昇し、熱中症になりやすい人、つまり冷え性の人は、汗腺が発達していないか、退化しているかのいずれかです。汗をかいて、筋肉をつけるためにも、ご自身で少し「きつい」と感じるような運動をしてください。ウォーキングならば、いつもの1.5倍のスピードで歩きます。これを30~40分。連続で歩くのが辛ければ、20分速く歩いて、20分は普通のスピードで歩き、また20分速く歩きます。これで合計40分です。洗濯物を干すときや取り入れるとき、その都度、しゃがんでもいい。これでスクワットになります。よく言われることですが、駅では階段を使う、電車では立つ。これだけでもいいのです。
夏のお風呂はいかがですか。
もちろん、夏であっても全身浴がベストです。40℃以下で30分が目安となります。このくらいの温度なら、30分はそれほど苦痛に感じません。お風呂に入りながら、両腕でバスタブを突っ張って押してみる。たった6秒間でも負荷となり、筋肉量は増えます。また、30分もつかっていれば、入浴後、心地いい疲れを感じ、夜ぐっすりと眠れるでしょう。
全身浴は水圧が体全体にかかり、血行が促進されます。ただし、心臓が悪い方は、心臓に負担のかからない半身浴がいいでしょう。
お湯の温度が40℃を超えると、バスタブに入った直後に血圧が上がります。浴室や脱衣場の温度が低ければ、特に冬場はヒートショック(急激な温度変化により血圧が乱高下する現象)を起こしかねません。年間で1万人以上が自宅で亡くなっていますが、その中の主な原因はヒートショックによるものです。
先生は鍼灸の専門家でもありますが、お腹を温めるツボはありますでしょうか。
ドライヤーを近づけてツボを温めてみてください。「熱い!」と感じたら遠ざける。それを5回繰り返します。お灸と同じ効果が得られるはずです。足三里と三陰交はドライヤーがあてやすい位置にありますし、おへそのまわりにもいくつかのツボがありますから、試してみてください。ドライヤーではなく、指で押圧してもかまいません。
最後に、冷えを解消することでさまざまな病気や不調が改善されることはよく知られるところですが、先生のところへ来られる患者さんの中で、特に成果が出ている症状は何でしょうか。
不妊症ですね。体を温めながら不妊治療を行なうと、妊娠する率は確実に高まりますし、中でも、流産癖のある方には効果があるようです。
また、体だけではなく、心の病にもいい影響を及ぼしています。例えば、うつ病の患者さんはセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が脳内で低下しており、これらの作用を高める薬を服用するのが一般的な治療法です。うつ病の患者さんは確実に体が冷えているので、体を温めると、これらの物質を作る能力が回復します。薬の必要性を下げるためにも「腸温活」はとても重要です。
川嶋朗 先生プロフィール
1957年東京生まれ。北海道大学医学部卒。東京女子医大大学院修了。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院留学後、東京女子医大准教授を経て、現在、東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授。最新刊『たった1分!あてるだけでキレイが目覚めるドライヤーお灸』(現代書林刊)をはじめ、著書およびテレビ出演多数。