【2016年7月】特別インタビュー
帯山中央病院 院長 渡邊 賀子 先生
冷え性の
「定義」「原因」「症状」「対策」
渡辺賀子先生は日本で初めて「冷え症外来」を開設し、これまで数多くの患者さんが抱えるあらゆる症状や悩みに対応してきました。今回は治療の最前線からの情報をお伝えします。
低体温と冷え症は同じと考えていいのですか?
低体温症とは、体の深部体温が35℃以下になる病態です。雪山で遭難したり、冬場に泥酔して道で寝てしまったりした場合などに多いのですが、高齢者では日常でも起きやすい傾向にあり、注意しなければなりません。よく体温が35℃前後しかないと言う人がいますが、ほとんどは体温を正しく測れていません。電子体温計では、発熱時の体温を迅速に測るために短時間で算出される予測値と、計測終了音が鳴った後しばらくして実際に計測した結果が表示される実測値があり、予測値が実測結果と思われがちです。冷え症外来でも大勢の方の体温を計測しましたが、実測値で36℃以下の人は1~2%でした。健常状態の人では、酵素の働きなどが最も効率的に行われる37℃前後に深部体温が保たれるようにできているのです。
冷えを抱える人によくみられる症状は何ですか?
冷えの悩みを抱える女性全体でもっとも多くみられた症状は、倦怠感でした。年代別に見ると、45~54歳では、多汗やほてり、イライラといった典型的な更年期症状が現れやすく、55歳以上に多いのが、疲れやすさや腰痛でした。44歳以下の若い世代では、めまいや立ちくらみ、頭重感が多い傾向でした。
冷え症はなぜ起こるのでしょうか?
冷え症の原因を大きく分けると、熱を作るのがうまくいかないか、熱を配るのがうまくいかないかの2つがあります。私たちは食べ物を消化、吸収して熱エネルギーを作り、体温を保っているのです。そのため、ダイエットや食欲不振などで食事量が少ないと熱をうまく作れません。また、一日の熱エネルギーの約6割は筋肉が作っているため、筋肉量や運動量が少ないと発熱量も少なくなってしまいます。
次に、熱を全身に配っているのが血液です。血流が悪くなると熱を全身にうまく届けられず、手足などが冷えてしまいます。いわゆるドロドロ血や動脈硬化など、血流が悪くなる原因は色々ありますが、もっとも影響が大きいものは自律神経です。緊張時に働く交感神経が優位な時は末梢血管が収縮して手足が冷え、リラックスモードで働く副交感神経が優位だと、末梢血管は拡張して手足が温かい状態になります。
冷え症を改善するのに良い方法は何ですか?
主に3つ、バランスの取れた食事、適度な運動、そしてリラックスすることです。冷えの原因でお話ししたように、熱を作る大もとは食べ物で、特に代謝も体温も低い朝の食事が大切となります。緑黄色野菜やタンパク質をたっぷりと、みそ汁など温かいものをプラスしてください。
運動は、ウォーキングやストレッチなど日常生活で気軽にできるものを中心に、筋肉を鍛えるスクワットや腹筋運動なども取り入れてはどうでしょうか。
寒い時季や冷房の中では、ストールやカイロなど体の外部から体を温めることも重要ですが、リラックスということを考慮すると、ぬるめのお風呂が最適です。温浴効果に加え、水圧によるマッサージ効果や体重負荷が10分の1になる浮力、さらには、入浴剤などによる香りの効果など、悪いことはまったくありません。お湯の温度は38~40度くらいで、出たり入ったりして、お湯につかっている時間は合計10分ほどで十分です。高齢の方には、水圧が全身にかからず、下半身の血流を良くしてくれる半身浴が向いています。
冷えの改善に良い方法はたくさんありますが、無理せず楽しくできる範囲でやりましょう。
渡邊賀子先生 プロフィール
1987年、久留米大学医学部卒業。その後、熊本大学、近畿大学、北里大学東洋医学総合研究所などを経て、2003年より慶應大学医学部非常勤講師、2004年、麻布ミューズクリニック開業。現在、帯山中央病院院長。医学博士。漢方専門医。