【2016年5月】特別インタビュー
こやまクリニック 院長 小山 郁 先生
「メタボとロコモ予防のための
トレーニング」
今年はオリンピックイヤーです。日本柔道は多くの金メダル獲得が期待されます。オリンピック選手ほどではないにしても、いくつになっても健康でいるためにトレーニングは必要です。柔道日本代表のチームドクターだった小山郁先生に中高年のトレーニングについてお話をお聞きしました。
先生は柔道のオリンピック代表チームのドクターでしたね。
私が参加したのは2004年のアテネオリンピックでした。ヤワラちゃんこと谷亮子選手がオリンピック2連覇、野村忠宏選手が3連覇を成し遂げました。その他、100キロ超級で金メダルを獲得した鈴木桂治選手や現在の日本代表監督である井上康生選手、また、次の北京オリンピックで二連覇を成し遂げた谷本歩美選手、内柴正人選手などがいました。特に女子では7階級の内の5階級で金メダル、1階級で銀メダル獲得と、最高のときに帯同させてもらいました。もう12年も前の話です。
一流のスポーツ選手の練習とはどのようなものですか?
彼らの練習時間は普段で1日に3~4時間ほど、強化合宿になると5~6時間ほどでしょうか。お互いが技をかけあう「乱取り」と呼ばれる稽古がメインになりますが、有酸素運動よりも強い運動強度で相手の身体をコントロールして、技をかけるときは一瞬での強い筋パワーを使いますが、これは無酸素運動になります。私自身も柔道をはじめとして、居合いや空手の練習をしていますが、運動強度としては、やはり柔道がもっとも“きつい”かもしれません。それでも一流選手が練習を続けられるのは、「絶対に諦めない」という気持ちがあるからでしょうね。
アスリートは当然として、中高年に運動は必要ですか?
もちろん必要です。心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病の原因とされるメタボリックシンドロームや、手や足などの運動器の障害によって自立した生活ができなくなるロコモティブシンドロームを予防、改善するのに運動は欠かせません。例えば、運動不足だと、摂取したエネルギーが消費されません。筋肉の量が減ると、代謝能力が低下しますから、どうしても太りやすくなり、メタボ体型になってしまいます。
高齢になると、転倒によって骨折し、それをきっかけとしてロコモティブシンドロームになったり、最悪の場合、寝たきりになったりするかもしれません。転びそうになったとき、とっさに足を踏み出したり、すばやく手で支えたりするためには、筋肉の中でも、「白筋」と呼ばれる、速くて強い動作をするための筋肉を鍛えておかなければなりません。
また、食事と睡眠、運動は健康的な生活を送る基本要素ですが、適度な運動は食欲を喚起し、充実した睡眠をもたらします。
運動をすると、体を内部から温めることができますか。
体温を生み出しているのは筋肉です。ですから筋肉の量が多ければそれだけ体温を作る能力が高まります。いわば、大型のエンジンを積んでいるようなものです。
筋肉で作られた熱を全身に運んでいるのは血液ですから、常に血行をよくしておく必要もあります。上半身は心臓の働きによって血液は循環していますが、引力の影響もあり、下半身の血液が上半身に戻っていくには心臓の力だけでは十分でありません。心臓の代わりの働きをしているのが、収縮することによってポンプの働きをしている足の筋肉なのです。やはり、下半身、それも足を中心にした筋トレが必要になります。
中高年が筋トレですか?
中高年になると、いくらトレーニングをしても筋肉は付かないと考える人もいるようですが、それは正しくありません。高齢者でも筋トレによって筋肉を付けることは可能です。加齢とともに筋肉の量は減っていきますが、関節を固定して、筋肉を使わない状態にしたほうが、筋肉の落ちるスピードは速いのです。運動をするかしないかが重要で、加齢は言い訳になりません。ただ、アスリートのように激しい筋トレをする必要はありません。
ウォーキングはどうでしょう
ウォーキングはジョギングなどと同じ有酸素運動です。全身の血流を促してくれますし、中高年向きといえます。ただし、筋肉を付ける運動ではありません。筋トレと合わせてするといいと思います。膝痛を抱えている人は膝のまわりの筋肉を鍛えてから、さらには、正しい歩き方を覚えてから行なうようにしてください。
運動の目安となる回数や時間を教えてください。
それまで運動らしい運動をしてこなかった方は、最初は1日30~40分、それを週に3回くらいでもいいでしょう。2度に分けて、合計40分でもかまいません。少しずつ、時間も負荷量も増やしていくといいですね。
筋トレをすると筋肉は疲れ、いったん筋力は低下します。ところがその後、栄養を摂取し休養を取ると、筋力は回復し元の強さより強くなります。それを超回復と呼びます。この時期に再びトレーニングをして、それを繰り返すことで筋肉を付けられるのです。逆に、間隔をあけ過ぎると効果はありません。超回復には筋肉によっても個人によっても差があります。一般的に24~72時間と考えてください。
続けるコツはありますか?
楽しいことは続けられます。自分ひとりでやるよりもグループで運動したほうが楽しいし、運動以外のもの、例えば、趣味やボランティア、そして仕事でもかまいませんから、いくつになっても社会とかかわり、体を動かすことです。グループ活動をするために外出するだけでも運動になります。
日本人は勤勉ですから、1日の運動の内容や体重の変化などを記録としておくと、それが励みになるはずです。だからといって、自分自身にノルマを課すのではなく、運動したい気分になったときにやるくらいでどうでしょうか。「ながら運動」でかまいません。生活の中で工夫してやればいいのです。例えば、料理をしているときに、かかとを上げ下げする、椅子に座り、足を地面と平行に延ばすだけでも足の筋トレになりますし、一つ手前の駅で降りて歩いたり、できるだけ階段を使ったりすれば有酸素運動にもなります。
小山郁先生 プロフィール
1960年、香川県生まれ。徳島大学医学部卒業。こやまクリニック院長。アテネオリンピック柔道チームドクター、極真空手、大道塾、キックボクシング、テコンドーなどのリングドクターも務める。『クロストレーニングのススメ』、『スポーツ医師が教えるヒザ寿命の延ばし方』、『ドクター小山のランニング・クリニック』など著書多数。